鈴野浩一
トラフ建築設計事務所が舞台美術を担当

『フリータイム』『わたしたちは無傷な別人である』に続き、本作の舞台美術を手がけるのはトラフ建築設計事務所。建築はもとより、ショップのインテリアデザインや美術展の会場構成、プロダクトデザイン、インスタレーションの制作など、複数の領域でその表現が高く評価されている。パートナーの禿真哉とともに事務所を主宰する鈴野浩一は、舞台美術を制作する楽しみについて次のように語る。

「インテリアデザインや住宅設計などを手がけた場合でも、自分たちが想像しなかったような使い方をしていただいているのを見るとすごく嬉しいんですが、チェルフィッチュの舞台では、岡田さんも役者さんたちも、舞台装置を使うことに関してのプロなんで、どうやって使ってどういう動きをしてやるか、常に考えながらいろいろと試してくれます。『フリータイム』では、550mm程度の高さで、テーブルとイスの上半分だけを切り取ったようなセットを作ったんですけど、それをきっかけに新しい動きが生まれていてゾクゾクしましたね」

そして、前作『わたしたちは無傷な別人である』では、ホワイトキューブのボックスを宙に浮かばせた舞台装置を制作。その内と外を意識させることで、演技が始まる場所とその外側という領域の境目を表現した。『ゾウガメのソニックライフ』では、そこから発想を展開させた。

「今回は舞台の中央で、手前と奥の境界となるような水平線を作っています。透明な空気のようなフレームというのがテーマで、手前と奥のボーダーを作りながらも、その奥までも見せてしまう。プロ野球のヒーローインタビューとかを見ると、そのインタビューの場所だけに背景があって、少し引くと、その外側もすべて見えますよね。それが逆におもしろいですし、隠さないのがチェルフィッチュ的でもあるなと思ったのが、今回の舞台美術を考えたきっかけになりました」

舞台の下手には、ヒーローインタビューのブースを思わせる装置を、中央部には前後の境界となるフレームを設える。舞台の手前と奥とでは、実際の世界と見えているだけの形だけの世界、という対比を生み出し、下手のインタビューブースと舞台中央とでは、また異なる次元のレイヤーが生み出される。「舞台の中で行われていること自体を疑ってかかっているようなところが岡田さんにはある」と感じ、鈴野はそこへ挑戦することに楽しみを見出している。舞台上にいくつかの世界を併存させ、その境界への意識から新しい動きが生み出されることに期待を抱いているという。

「チェルフィッチュと一緒に仕事をすると、岡田さんは安易に落とし所を決めようとはせずに、ギリギリまで変えることもいとわないで制作をしていると感じます。ギリギリまで宙ぶらりんにしておくというか、“こういうこともあるかもしれない”、“イスとかも使うかもしれない”というような感じで、早く決定してしまわずに、可能性を広げながらリハーサルを続けている。新しい動きや発想を生み出すために、ギリギリまで宙ぶらりんのままでいろいろと試す岡田さんのやり方にはとても共感できますし、普段とは脳みその違う部分を使うことになるので、それも刺激的です」

舞台装置の大枠は、おそらくこの写真に写った模型と同じようなものができあがるだろう。しかし、そこにどのような家具や小道具を関連づけるかは、本番直前まで未知数だ。動きも含め、フィジカルな意味での役者の存在が舞台上の装置と関係することでも、『ゾウガメのソニックライフ』の舞台表現が形作られていく。