菊地敦己
フライヤーをデザインした菊地敦己の視点

デザイン事務所ブルーマークを主宰し、アートディレクター / グラフィックデザイナーとして活躍する菊地敦己。
ミナ ペルホネンやサリー・スコットなどファッションブランドのブランディング、青森県立美術館のビジュアルアイデンティティ、さらには、雑誌や書籍などのエディトリアルから、飲食店のプロデュースまで幅広くデザインに携わる彼が、『ゾウガメのソニックライフ』の宣伝美術を担当し、フライヤーのデザインを手がけた。これまでのチェルフィッチュ作品を見て、その印象を次のように語る。

「チェルフィッチュの作品は個人的なようでいて、じつは社会的な作品だと思っています。単純にいまの日本の若者の生態をトレースしているだけではないと感じます。フィクションであるが故の確かなリアリズムがあります。演劇は、ライブとはいえフィクションなわけで、そのフィクションの世界をリアルにするためには、実際の世界をそのまま再現するのではなく嘘をつく必要がありますよね。そういう意味で、作品の中の世界がすごくリアルで、存在感のある強度が感じられます。それと、現代の若者や中間世代を映す鏡となっていながら、そこに対して否定的になっていない印象を受けます。だから、希望がもてる」
フライヤーをデザインすることになっても、もちろん完成した作品を見て作業することはできない。その大前提のもと、普段の仕事とは少し異なるプロセスで、制作が進められたと語る。

「例えば、CDジャケットをデザインするときには、そのCDを聞かずにビジュアルを作ることはできません。アーティストのかたと仕事をするときは、その世界観をビジュアルに落としこむ“翻訳作業”みたいなことをするんですけど、今回はタイトルしかなかった。だから、チラシのビジュアルを担当した小金沢(健人)くんから画像が送られてきて、そこに対して自分がどういう手を打つか、という囲碁のようなプロセスでしたね」

小金沢健人の映像作品から4種類の静止画像がキャプチャーされ、4会場分のフライヤー計4パターンをデザイン。フォントを選ぶ際には、これまでに見たチェルフィッチュ作品とその印象のことは思い出しながらも、小金沢作品との相性のほうをより重視したという。

「フォントは、携帯用の書体として存在しているものを少し加工しました。あのビジュアルに対して、文字として意匠的に作られたものはあまりハマりがよくなかった。それよりも、ただ読むためだけに作られた文字を使いたいなと。それと、4パターンのデザインについては、映像からのキャプチャー画像ということで、時間が移り変わっていくような感覚を表現したかった。このチラシのデザインにイメージや意味がついてくるのは、最終的には演劇作品が完成してからなので、公演が終わってみてどんなものが立ち上がってくるのか、純粋に楽しみです」